長年信じられてきた「保護された飼育環境のほうが野生よりも長生きする」という神話は、動物園の統計や長期野外モニタリングの精緻化によって決定的な修正を迫られている。野生のアフリカゾウ(Loxodonta africana)が天敵や干魃を乗り越えれば60年から70年近く生き延びるのに対し、歴史的な飼育個体の平均寿命は時にその半分近くに落ち込む事例が科学誌で報告され、大きな議論を呼んできた。
なぜ安全なはずの檻の中で命が縮むのか。その原因は運動不足による関節疾患や肥満、そして群れから隔離されることによる慢性的な心理ストレスにある。母系社会で数十頭が絆を結ぶ彼らにとって、単独や数頭での隔離生活は精神を激しく摩耗させる。一方で、広大な放飼場と綿密な環境エンリッチメントを導入した現代の先進的な施設では、野生に匹敵する、あるいはそれを超える健康寿命を達成する個体も増えており、飼育環境の質が文字通り寿命の決定因子となっている。