「元祖力餅しげのや」の代名詞ともいえるのが、店内中央をまっすぐに走る赤と白の県境ラインです。向かって右側が「群馬県安中市松井田町」、左側が「長野県北佐久郡軽井沢町」に分かれており、飲食スペースはもちろん、厨房やトイレに至るまで行政区画が跨がっています。
このような極めて珍しい構造になった歴史的背景には、古代から東山道・中山道の最大の難所として知られた碓氷峠の地勢があります。江戸幕府が敷いた街道整備において、険しい峠を登りきった頂上は旅人が息を整え、道中の無事を祈願する神聖な場所でした。茶屋の真向かいに鎮座する「熊野皇大神社(長野側)/熊野神社(群馬側)」も敷地中央で2つの宗教法人に分かれており、しげのやはその門前茶屋として旅人を迎え続けてきた経緯を持ちます。
現在でも、保健所の営業許可や消防署の管轄、固定資産税の納税に至るまで両県双方の手続きを踏んで運営されており、電話番号すら群馬・長野の2回線が引かれているという徹底ぶりです。観光客にとっては「信州と上州を同時に味わう」という非日常の空間体験が、他にはない強力な求心力となっています。