無限列車編における魘夢の強さは、単純な腕力や身体スペックではなく、その狡猾極まりない搦め手(初見殺し性能)にありました。彼の操る血鬼術の体系は、鬼殺隊のセオリーを根底から無力化する極めて高度な心理戦兵器です。
第一の脅威が、自らの血をインクとして汽車チケットに混ぜ込み、車掌の切符切りを介して強制的に発動させた「睡眠・夢誘導の術」です。鬼狩り側は術の気配を察知することすらできず、柱である煉獄杏寿郎や炭治郎を含めた車内の全員が一瞬で深い眠りに落とされました。もし炭治郎が夢の中で父・炭十郎の導きを得て、「夢の中で自刃することで覚醒できる」という超常的かつ命懸けの解答に気付かなければ、その時点で鬼殺隊の敗北は決定していました。
第二の脅威が、「精神の核の破壊」です。夢の無意識領域に侵入させた人間(魘夢に甘い夢を見せてもらう見返りに協力していた結核の青年たち)を使って、対象の自我の根源である精神の核を破壊させるという戦術。肉体を直接攻撃するのではなく、廃人へと追い込むこの手法は、柱であっても回避困難な凶悪極まりない性質を誇ります。
そして最大のサプライズが、「無限列車という巨大な鉄の塊そのものとの完全同化」でした。切断すべき「頚」の概念を車両全体の骨組みへと拡張させ、200人以上の一般乗客を瞬時に自らの血肉を補うための防壁およびエサに変貌させたのです。これにより、「頸を斬れば勝てる」という鬼殺の基本ルールを実質的に無力化し、柱である煉獄の行動を乗客の救助に完全に縛り付けることに成功しました。炭治郎と伊之助の阿吽の呼吸による「生生流転」と「裂格破弾」、そして機関車の床下に露出した歪な頚の骨への「碧羅の天」が決まらなければ、列車そのものが完全な魔窟と化していたことは疑いようがありません。