下山事件は、直後に連続して発生した三鷹事件(1949年7月15日、無人列車暴走事件)、松川事件(同年8月17日、列車脱線転覆事件)とともに国鉄三大ミステリーと総称されています。これらの事件は短期間に集中して発生し、いずれも労働運動の激化と治安対策の強化が絡む転換点となりました。
松本清張氏が著書『日本の黒い霧』で提示した見解は、事件を戦後日本の地政学的力学の中に位置づけました。当時、占領軍であるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)内部では、民主化を推進するGS(民政局)と、反共工作や諜報活動を主導するG2(参謀第2部・チャールズ・ウィロビー少将管轄)の間で激しい主導権争いが起きていました。
朝鮮半島情勢が緊迫化する中、日本を「反共の防波堤」として再編したい勢力が、国鉄労組をはじめとする左派勢力に打撃を与え、世論を治安維持強化へと誘導するために仕組んだ謀略ではないかという仮説です。亜細亜産業やキャノン機関といったGHQ直属・協力組織の影、旧日本軍の特務機関残党の暗躍など、単なる一犯罪の枠組に収まらない巨大な国際謀略の構図が幾度となく指摘されてきました。