春場所の劇的な優勝劇から一転、稀勢の里を待っていたのは過酷なリハビリと終わりの見えない苦闘でした。左胸の筋肉断裂は、相撲力士にとって命とも言える「左のおっつけ」「左四つからの寄り」という最大の武器を完全に奪い去ったのです。
翌5月夏場所を途中休場すると、そこから8場所連続休場という不本意な記録を残すことになります。横綱としての責任感から早期復帰を目指しては患部を再悪化させる悪循環に陥り、満足な稽古が積めないまま土俵に上がる日々が続きました。
進退を懸けて臨んだ2018年秋場所では10勝5敗と勝ち越して復活の兆しを見せたものの、本来の力強い相撲には程遠い状態でした。そして迎えた2019年初場所、初日からまさかの3連敗を喫した稀勢の里は、4日目の朝についに現役引退を表明します。
引退理由の真相について、後に本人は「横綱として相撲を取り切る筋力と感覚が戻らなかった」「横綱の名を汚す相撲を取り続けるわけにはいかなかった」と語っています。引退会見で語った「私の土俵人生において、一片の悔いもございません」という名言は、怪我に苦しみ抜いた末に出した覚悟の言葉として、今なお多くの人々の胸を打っています。