古書収集は、単なる趣味の領域を遥かに逸脱した知的な格闘である。神田神保町古書街の路地裏やパリ左岸のブキニストを歩き回り、数十年の歳月をかけて蒐集されたコレクションは、挿絵本、風刺画、服飾史料、パリ万博の公式記録など多岐にわたる。オノレ・ドーミエやグランヴィルが手掛けた貴重なリトグラフをはじめ、散逸の危機に瀕していた紙の記憶が、執念とも呼べる熱情によって一つの書斎に集約された。
「本を買うのは置き場所があるからではない。本があるから場所を作るのだ」という言葉通り、書物によって生活空間そのものが浸食されていくプロセスすら、この碩学にとっては思考を深めるための必然的な環境だった。紙の手触り、インクの匂い、装丁の革が放つ艶。物質としての本に刻まれた時代の息吹を全身で受け止め続けることが、膨大な著作を生み出す無尽蔵のエネルギー源となっている。