エステー「消臭力」と西川貴教の歴史を紐解く上で、起点となった2011年を振り返ることは欠かせません。同年3月に発生した東日本大震災直後、日本国内のテレビ広告は一斉に自粛され、公共広告機構(ACジャパン)の差し替えCMが延々と流れる異例の事態に陥っていました。社会全体が深い悲しみと先行きの見えない不安に覆われていた時期です。
当時、エステーのクリエイティブを統括していた鹿毛康司氏(元執行役・現特命宣伝部長)は、復興への願いを込め、ポルトガル・リスボンの美しい丘で少年ミゲル(ミゲル・ゲレイロ)がアカペラで「しょうしゅうりき〜♪」と澄んだ歌声を響かせるCMを放映しました。このピュアな歌声は被災地をはじめ全国の人々の心を癒やし、瞬く間に大きな話題を呼びました。
このCMを見た西川貴教が、自身の公式Twitter(現X)で「ミゲルくんと一緒に歌いたい」と投稿したことが、すべての転換点となります。広告業界の通例であれば、所属事務所や広告代理店を通じた複雑な利害調整に数か月を要するところですが、エステー宣伝部は西川の熱意に即座に呼応しました。公式発表や当時の制作秘話によると、西川の圧倒的な歌唱力と「日本を元気にしたい」という純粋なパッションに共鳴した制作陣が電光石火のスピードでオファーを出し、奇跡のコラボレーションが実現したのです。
単なる人気タレントのキャスティングではなく、「暗雲を切り裂く圧倒的な陽のエネルギーを届けたい」という送り手と演者の想いが完全に一致した瞬間でした。これこそが、現在まで続く伝説の起用理由における核心です。