氷食症を引き起こす身体的要因の約8割以上を占めるとされるのが、鉄欠乏性貧血です。血液中のヘモグロビン濃度が低下するだけでなく、体内の「貯蔵鉄」であるフェリチンが底をつくことで、全身の細胞や脳への酸素供給が慢性的に滞ります。
なぜ鉄分が不足すると氷を食べたくなるのかについては、主に2つの医学的仮説が確立されています。
第1に、脳の視床下部における体温調節中枢の機能低下です。脳への酸素供給が不十分になると、体温をコントロールする自律神経機能が誤作動を起こし、深部体温が不安定になります。その結果、頭部や舌の表面温度が上昇したと脳が誤認し、局所的な熱を冷ますために氷を激しく渇望するようになります。
第2に、舌炎や口角炎による口腔内の局所的熱感です。鉄分は粘膜組織の代謝に不可欠なミネラルであり、これが欠乏すると舌の乳頭が萎縮して平滑舌(赤くツルツルした状態)になり、ピリピリとした灼熱感や痛みが生じます。この不快な熱感を氷の極低温で麻痺・冷却させようとする反射的な行動が、氷食症の引き金となります。
特に妊娠中に氷を異常に食べる女性が急増するのは、胎児の成長と胎盤形成のために大量の鉄分が優先的に移行し、母体の血漿量増加によって血液が希釈されるためです。妊娠中期から後期にかけて「急に氷のガリガリした食感がたまらなくなった」と感じる妊婦が多いのは、まさに母胎が発する鉄分枯渇のSOSに他なりません。