銀座や麻布十番のような華やかな歓楽街ではない。大森(東京都大田区)という、生活の匂いが色濃く残る住宅街の路地裏に、連夜のように高級車が横付けされる光景は異様ですらある。過度な装飾を排した潔い白木のカウンター。客の視線はただ一点、まな板の前に立つ主の手元へと注がれる。
現在の飲食業を取り巻く環境は決して平坦ではない。原材料の高騰や人手不足が叫ばれるなか、この店には客足が途絶える気配すらない。席数はわずか十数席。その限られた空間に身を置くこと自体が、今や食を愛する者たちにとってひとつのステータスとなっているのだ。