「熱いお湯に浸かればウイルスも洗い流されて消毒できるのではないか」という認識は、医学的に完全な誤解です。冬場から春先にかけて猛威を振るうノロウイルスは熱に極めて強く、厚生労働省の感染症対策指針でも示されている通り、不活化には中心温度85℃〜90℃以上で90秒以上の加熱が求められます。日常の入浴温度である40℃〜42℃前後の湯船の中では、ウイルスは何のダメージも受けず生存し続けます。
浴槽内での感染メカニズムはシンプルかつ深刻です。下痢症状がある患者の臀部や肛門周囲には、微量であっても肉眼では見えない糞便と大量のウイルス粒子が付着しています。ノロウイルスの場合、わずか10〜100個程度の微小なウイルスが体内に侵入するだけで感染が成立します。患者が湯船に浸かった瞬間、お湯の中にウイルスが溶け出し、そのお湯を後から入った家族が顔につけたり、誤って口に含んだりすることで容易に経口感染が引き起こされます。
さらに盲点となるのが、ロタウイルスやアデノウイルスなども含めた耐環境性の高さです。お風呂場という高温多湿な環境はウイルスを失活させるどころか、水分とともに皮膚やタイル表面に付着しやすくさせます。浴室という狭い密閉空間において、換気不足のままウイルス混じりの水滴やエアロゾルを吸い込むリスクも指摘されており、「家族と同じお湯を使い回す」行為は自らクラスターを招き入れている状態に他なりません。