王騎という武将を語る上で欠かせないのが、六大将軍の紅一点であった摎(きょう)との哀切な関係性です。摎は幼少期、昭王の身罷ることを恐れた母の手により王騎の屋敷へ預けられ、王騎の傍らで育ちました。武芸に秀でた彼女は、ある日王騎に対して無垢な瞳でひとつの約束を交わします。
「私が城を百個取ったら、王騎様の妻にしてください」
王騎はその言葉を笑って受け止めつつも、心の中で深く受け止めていました。苛烈な戦場を駆け抜け、瞬く間に武功を重ねた摎は、ついに99個目の城を陥落させます。そして、記念すべき百個目の城として攻略を目指した地こそが「馬陽」でした。しかし、その陣営に突如として現れた龐煖の凶刃により、摎は志半ばで命を奪われることになります。
知らせを受けた王騎は怒髪天を衝く勢いで駆けつけ、鬼神の如き形相で龐煖に斬りかかり、その顔面に深い傷を刻み込んで撃退しました。しかし、最愛の女性を失った心の傷は決して消えることはありませんでした。昭王との間に交わされた「中華統一の夢」と、摎と果たせなかった「百個目の城の約束」。馬陽の戦いとは、王騎にとって過去の亡霊と対峙し、己の生に決着をつけるための必然の舞台だったのです。