時計の針を1987年に戻そう。萬田久子が選んだ道は、当時の日本社会における常識を大きく揺るがすものだった。アパレル業界の風雲児であり、後に大手アパレルグループのトップとして名を馳せる実業家・佐々木力氏との間に宿した新しい命。彼女はキャリアの絶頂期に単身ニューヨークへと渡り、極秘出産を決断した。
婚姻届という形式にとらわれず、事実婚というパートナーシップを貫いた二人の関係は、当時の芸能ジャーナリズムから苛烈なバッシングを浴びることとなった。しかし、萬田久子は決して揺らがなかった。我が子を抱きかかえ、堂々と帰国した空港での凛とした姿は、今なお語り継がれる名シーンである。佐々木力氏が2011年に急逝するまでの約四半世紀、二人は深い信頼関係で結ばれ、息子への愛情を注ぎ続けた。