「りんごをすりおろすと栄養が破壊される」という言説の根拠として頻繁に挙げられるのが、りんご自体に含まれる酸化酵素アスコルビナーゼ(アスコルビン酸酸化酵素)の存在です。りんごの細胞を物理的にすり潰す際、細胞質と液胞が混ざり合い、この酵素が空気に触れることで、還元型ビタミンCを酸化型ビタミンCへと変化させます。
しかし、生化学的な事実として、酸化型ビタミンC(デヒドロアスコルビン酸)は体内に入ると還元型に復元され、ビタミンCとしての生理活性を保つことが各種実験で実証されています。つまり、「ビタミンCがゼロになる」という噂は明確な誤解です。ただし、放置し続けると酸化がさらに進み、不可逆的な分解産物へと移行してしまうため、すりおろした直後の鮮度管理が味覚と栄養保持の鍵を握ることは間違いありません。
一方で、すりおろしという物理的破砕がもたらす最大のメリットはすりおろしりんごの栄養と効能における吸収速度の向上です。固形のまま咀嚼して摂取する場合と比較して、植物の強固な細胞壁(セルロース)があらかじめ細かく破壊されているため、胃酸や消化酵素の分泌が低下している衰弱時でも、胃滞留時間を短縮しながら迅速にエネルギー源(果糖・ブドウ糖)や抗酸化物質を取り込めます。
さらに注目すべきは、おろし金とミキサーの栄養比較において生じる差異です。陶器やプラスチックのおろし金を使った手作業の破砕は、摩擦熱の発生が極めて少なく、酸化の進行が緩やかです。対して高速回転するミキサーやフードプロセッサーは、毎分1万回転を超えるブレードによって空気を大量に巻き込み、瞬時に酸化が進行して褐変を早める弱点があります。栄養保持の観点からは、昔ながらの手すり、もしくは低速圧搾式のスロージューサーに明確な分があります。