この話の核心は、師匠が弟子の手からなぜ「2本目の矢」を奪ったのかという点にあります。弓を習い始めたばかりの入門者は、当然ながら師匠の前で良いところを見せようと緊張しており、決して故意に手を抜こう(「ことさらに捨つる心」)などとは思っていません。
しかし、人間には「もし失敗しても、まだ次がある」という予備の選択肢が見えた瞬間、無意識のうちに集中力が分散し、油断や妥協(「懈怠の心」)が生じてしまう弱さがあります。師匠が戒めたのは、本人の自覚すら及ばない無意識の甘えです。
筆者である吉田兼好は、この弓のエピソードから一歩踏み込み、仏道修行や学問、日々の生活全般へと視野を広げています。「明日にしよう」「次の機会に頑張ろう」と先延ばしにする心こそが成長を阻む最大の敵であり、「この一矢に定むべし」という背水の覚悟で臨むことの大切さを説いているのです。