1980年代半ば、コミック誌のページを開いた読者たちが目にしたのは、可憐なヒロインや甘い恋愛模様ではなかった。そこに広がるのは、ストリートギャングが激しい銃撃戦を繰り広げ、裏社会の権力者が影で糸を引く、冷徹でリアルなグラフィティだ。吉田秋生の手によって描かれた無駄のない精緻な線画は、80年代ニューヨークの裏通りが持つ冷気と匂いまで完璧に切り取ってみせた。
物語を突き動かすのは、謎のキーワード「バナナフィッシュ」。人間を錯乱状態へと狂わせる禁断の薬物を巡り、米政界の陰謀、巨大マフィアの思惑、そして路上の少年たちが複雑に絡み合う。巧みに張り巡らされた伏線と息もつかせぬサスペンス展開は、極上のハリウッド映画を彷彿とさせ、少女漫画ファンのみならず、大人の男性読者や海外のコミック愛好家までをも一気に呑み込んでいった。