ケルト神話の体系において、ティル・ナ・ノーグ(ゲール語:Tír na nÓg)は「若さの地」「若者たちの国」を意味します。ここでの「若さ」とは単なる年齢の若年層を指すのではなく、肉体が衰えることのない「常若」の状態を指し示しています。四季の循環による冬枯れもなく、飢餓や疫病、精神的な苦悩から完全に解放された理想郷と定義されます。
この楽園の住人となったのが、アイルランド神話に登場する超常の神族トゥアハ・デ・ダナーン(Tuatha Dé Danann/ダナ神族)です。彼らは魔法と高度な工芸技術、豊かな知識を誇り、かつてアイルランドの地を支配していました。しかし、後の時代に南方から侵略してきた人間族「ミレ族(Milesians)」との戦争に敗北します。
敗れた神族は、アイルランドの大地を地上と地下(あるいは西方の彼方)に分割する協定を結び、現実世界の表舞台から姿を消しました。彼らは「シド(Sídhe)」と呼ばれる妖精の塚や、霧に包まれた西方の島々、湖の底へと退き、そこが神話上のケルト神話における妖精郷(他界・Otherworld)として定着していったのです。