田中角栄を単なる「昭和の怪物政治家」として片付けられない理由は、その並外れた政策構想力と実行スピードにあります。その集大成と言えるのが、1972年(昭和47年)の総裁選直前に発表され、瞬く間に91万部を超える大ベストセラーとなった自著『日本列島改造論』です。
本書の核心は、東京一極集中と過密・過疎の弊害を打破するため、新幹線網と高速道路網を全国に張り巡らせ、工業の地方分散と情報通信網の整備によって「地方でも都市と同じ水準の生活」を可能にする国土計画にありました。単なるバラマキ土木工事ではなく、以下のような先駆的な都市計画思想が盛り込まれていました。
- 交通インフラの高速化:全国を2時間から3時間圏内で結ぶ新幹線・高速自動車道ネットワークの青写真
- 過密の解消と環境保全:大都市圏の公害問題を克服し、豊かな自然と産業が共存する地方都市の再編
- エネルギー・資源戦略:地方インフラ整備に伴う長期的な産業基盤の安定化
発表直後のオイルショックや地価高騰(狂乱物価)によって計画の一部は軌道修正を余儀なくされましたが、現代の新幹線網や高速道路網の基礎がこの書によって敷かれた歴史的事実は揺らぎません。政策文書としての格調と、国民へ向けた熱いメッセージ性が同居する本書は、国家レベルのグランドデザインを学びたい読者にとって必読の一次資料です。