田中好子さんの歩んできた軌跡を振り返ると、日本の芸能界における稀有な変遷が際立つ。渡辺プロダクションに所属し、伊藤蘭さん、藤村美樹さんとともに結成したキャンディーズは、社会現象と呼ばれるほどの爆発的人気を博した。「普通の女の子に戻りたい」という衝撃的な宣言とともにグループが解散した後は、一時芸能界を離れたものの、女優として復帰を果たす。
その実力を世に知らしめたのが、今村昌平監督の映画『黒い雨』(1989年)である。原爆の悲劇に翻弄される主人公・重松矢須子役を鬼気迫る演技で体現し、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数多の映画賞を総なめにした。アイドル出身という色眼鏡を完全に払拭し、日本映画・ヒューマンドラマの歴史にその名を刻んだ瞬間だった。