1960年代末、ドスの効いたハスキーボイスとどこか翳りのある眼差しで颯爽と現れた藤圭子は、それまでの演歌の概念を根底から覆した。『新宿の女』で鮮烈なデビューを果たし、続く『圭子の夢は夜ひらく』はアルバム通算40週連続1位という、日本の音楽業界の歴史に刻まれる金字塔を打ち立てる。彼女の歌声は単なるヒット曲を超え、高度経済成長期の陰に追いやられた人々の悲哀を代弁する「怨歌」として社会現象となった。
1970年代の昭和歌謡ブームを牽引し、日本レコード大賞を受賞するなど時代の寵児となった彼女だったが、その栄光の裏には喉の病や絶え間ない精神的圧迫がのしかかっていた。前川清との結婚とわずか1年あまりでの離婚、そして引退と復帰の繰り返し。彼女にとってステージは、輝かしい脚光の場であると同時に、自らの魂を削り続ける過酷な戦場でもあったのだ。