特攻隊を巡る言説は、時代のメディア環境や社会情勢によって大きく揺れ動いてきた。ゼロ年代からテン年代にかけて国民的ヒットを記録した百田尚樹氏の小説『永遠の0』は、生への執着を持ちながらも時代の奔流に呑まれて特攻を選ばざるを得なかったパイロットの悲劇を描き、多くの共感を呼んだ。そこでは特攻が崇高な自己犠牲と哀切を帯びたドラマとして消費される側面が強かった。
しかし、作家・演出家の鴻上尚史氏が佐々木友次氏への直接取材を重ねて上梓した『不死身の特攻兵』の登場は、この文脈を根底から覆した。鴻上氏の著作が白日の下に晒したのは、情緒的な美談ではなく、「死ぬことが目的化された作戦の不合理」と「それに理詰めで抵抗した生身の人間」のリアルな闘いであった。
佐々木氏の証言は、特攻隊員を「純粋無垢に国のために散った神仏のような若者」としてのみ描く固定観念を打ち砕いた。彼らは死にたかったわけではない。生きる権利があり、理不尽な命令に対して疑問を抱き、抗う手段を必死に模索していた一人の人間だったのだ。