そもそも『桃太郎』という物語は、最初から現在のような勧善懲悪の固定された形だったわけではありません。時代ごとの支配層や社会規範によって、その結末や設定は幾度となく書き換えられてきました。
室町時代の『御伽草子』や江戸時代の草双紙における初期の桃太郎は、桃を食べて若返った老夫婦から生まれる「回春型」が主流でした。当時の桃太郎は鬼を退治して宝を持ち帰るものの、それは悪の殲滅というより「冒険による富の獲得と立身出世」という世俗的なサクセスストーリーでした。
物語を「絶対的正義が悪を討つ道徳劇」へと決定的に固定化したのは、明治時代の国定教科書です。富国強兵を目指す国家体制のもと、勇敢で従順な兵士像を育成するため、鬼は明確な「悪者」に仕立て上げられました。私たちが慣れ親しんだ桃太郎像は、実は明治以降に作られたプロパガンダ的側面の強いバージョンだったのです。