メディアやSNSの短尺動画では、「湯シャンを続ければ頭皮が無臭になる」「野生動物と同じで人間も洗剤は不要」といった極端な自然回帰論がしばしば拡散されます。しかし、これらの言説には毛髪生理学を無視した重大な盲点が存在します。
第1の誤解は、「数ヶ月我慢すれば皮脂分泌が減少し、一切ベタつかなくなる」という過度な期待です。確かに、強力なシャンプーによる皮脂の取りすぎが原因でリバウンドを起こしていた人の場合、数週間で分泌量が落ち着くケースは見られます。しかし、皮脂分泌の基礎値は、アンドロゲン(男性ホルモン)の受容体活性や遺伝的体質、脂質・糖質を中心とした食生活、精神的ストレスによってその大半がコントロールされています。外因的なシャンプーの有無だけで皮脂腺のサイズや分泌能力がゼロになることは生化学的にあり得ません。
第2の盲点は、「現代の生活環境」と「野生」の混同です。人間は大気汚染物質、排気ガス、調理時の油煙、さらにはシリコンやポリマーを含むヘアワックスやオイルなど、水溶性ではない強固な化学物質に囲まれて暮らしています。これらはぬるま湯の流水だけでは絶対に分解できません。スタイリング剤を使用した日にも頑なに湯シャンを貫けば、毛穴周辺に化合物が沈着し、不可逆的な毛包炎や脱毛症を誘発するリスクが高まります。