『もののけ姫』の劇伴が聴き手の情動を強く揺さぶる理由について、音楽理論や深層心理学の観点から分析すると、綿密に計算された音響設計が浮かび上がる。
久石氏は本作において、これまでのジブリ作品で見られた軽妙なポップセンスを意図的に封印し、全編にわたって東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団による本格的なシンフォニックスコアを構築した。基調となっているのは、日本の伝統音楽やアジアの民族音楽に見られる「ヨナ抜き音階」やペンタトニック(五音音階)のエッセンスだ。日本人の深層意識に刻まれた原風景の旋律を、ヨーロッパ伝統の分厚いオーケストラ和声で包み込むことで、懐かしさと壮大さが同居する独自の音像が完成した。
深層心理学的に見れば、本作のスコアは人間の感情における「死と再生のサイクル」を忠実にトレースしている。序盤のエミシの村を襲うタタリ神の恐怖から、アシタカの旅立ち、シシ神の森の神秘、そして文明と自然の殺戮戦へと至るプロットにおいて、音楽は登場人物のセリフ以上に無意識の葛藤を代弁する。単なる善悪二元論を排した宮崎作品の複雑な世界観を、久石氏は不穏なテンションコードと叙情的な旋律の対比によって見事に表現しきった。