日本人がスイスの団体に受け入れられるための基準は極めて厳密です。単に「死にたい」という主観的な希死念慮だけでは一切受け入れられません。満たすべき絶対条件として、以下の3点が厳格に求められます。
① 回復不能な不治の病、または末期状態であること
② 耐えがたい肉体的・精神的苦痛があり、治療の選択肢が尽きていること
③ 明確な意思能力(判断能力)を維持していること
とりわけ議論が紛糾するのが精神疾患を理由とする申請です。法律上、精神疾患も対象外ではありませんが、精神症状そのものが自死願望を引き起こしている(判断能力が損なわれている)可能性を排除することが医学的に極めて困難です。そのため、精神疾患単独での承認ハードルは事実上、極めて高いのが実情です。
日本国内でこの問題が広く知られる契機となったのが、2019年に放映されたNHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』でした。神経難病である多系統萎縮症を患った当時51歳の日本人女性(小島ミナさん)が、自らの意思を保てるうちに尊厳ある最期を迎えたいとスイスへ渡航し、ライフサークルの支援を受けて旅立つ姿を追ったドキュメンタリーは、日本社会に巨大な衝撃を与えました。
この報道以降、難病患者やその家族の間でスイスへの相談件数は増加傾向にありますが、診断書の英語化、意思能力を保った状態での長距離移動の過酷さ、残される家族が日本帰国後に背負う心理的負担など、現実の壁は厚く立ちはだかっています。