スエズ運河の地理的優位性を理解するには、まずその位置と歴史的経緯を確認する必要があります。エジプト北東部、シナイ半島の付け根に位置するスエズ運河は、全長約193kmに及ぶ人工水路です。1869年、フランスの外交官フェルディナン・ド・レセップスの主導によって開通し、それまでアフリカ大陸を一周せざるを得なかった欧州・アジア間の航海距離を一挙に約7,000〜9,000km短縮させました。
国際運河の双璧としてよく比較されるのが中米のパナマ運河ですが、両者には決定的な構造上の違いが存在します。
パナマ運河がガトゥン湖の淡水を用いた閘門式であり、近年エルニーニョ現象等に伴う干ばつで通航制限に苦しんだのに対し、スエズ運河は閘門を持たない海面式であるため、自然災害による水不足とは無縁です。しかしその反面、周辺地域(シナイ半島、紅海、イエメン沖)の政治的安定度に運命を完全に握られるという「地政学的脆弱性」を宿命的に抱えています。