すべての始まりは1990年。サントリーウイスキー「クレスト12」のCMソングとして世に送り出された。作詞・松本隆、作曲・加藤和彦という日本のポップス界を代表する黄金コンビの手によって誕生したこの曲は、演歌歌手の石川さゆりが「SAYURI」名義でジャジーに歌い上げたことで大きな話題を呼んだ。しっとりと濡れたようなボーカルと、大人の夜を演出するメロディライン。それまでのウイスキーCMが持っていた「硬派で武骨」な世界観を、一瞬で洗練された艶やかさへと塗り替えた瞬間だった。
バブル末期の華やかさと一抹の切なさが同居していた当時、このCMはテレビの画面越しに贅沢な「静寂」を届けた。酒を味わうだけでなく、酒を飲む時間そのものを愛おしむという新しい価値観。それは、まさに日本の洋酒文化における大きな転換点と言えた。