机上の空論にとどまらず、現場におけるソーシャルサポートの有無は、ときに個人の生活やキャリアを左右する決定打となります。厚生労働省が実施した「労働安全衛生調査」の直近データを見ても、現在の仕事や職業生活に関し「強い不安、悩み、ストレスとなっている事柄がある」と回答した労働者の割合は82.2%に上り、過去最高水準で高止まりしています。
産業保健の現場取材において、あるIT企業専属の産業医は次のように証言しています。
「適応障害やうつ病で休職に至る社員の面談記録を精査すると、業務量そのものの多さ以上に、『周囲のサポート知覚(助けてもらえるという確信)』が完全に途絶えていたケースが9割を超えます。フルリモートやハイブリッド勤務の普及によって、同僚の疲弊サインに気付けない『孤立型過労』が多発しているのが実情です」
また、過酷な交代勤務と感情労働が日常化している看護・医療現場でも、ソーシャルサポートの機能不全は深刻な離職問題へと直結しています。都内の総合病院に勤務する30代の元看護師が手記に綴った告白は、支援の実態を生々しく物語っています。
「『新人は自分で考えて動くべき』という暗黙の文化の中で、誰も業務を代わってくれず(道具的サポートの欠如)、ミスをすれば冷笑されるだけ(評価的サポートの欠如)。情緒的に弱音を吐ける先輩もおらず、孤立無援でした。『この病棟には私の味方が一人もいない』と確信した瞬間、出勤前に動悸と過呼吸が止まらなくなりました」
現場の実態データが証明しているのは、個人のレジリエンス(精神的回復力)を高める施策以上に、周囲のソーシャルサポートネットワークを組織的に構築・維持することこそが、離職防止とメンタルヘルス維持の最優先事項であるという冷徹な事実です。