松岡禎丞さんの真骨頂は、王道の正統派ヒーローにとどまらず、見る者の背筋を凍らせる怪演や、誰もが応援したくなる愚直な少年の成長劇においても遺憾なく発揮されます。その背景には、作品のオーディションやキャスティング段階における劇的なエピソードが存在します。
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のベル・クラネル役に抜擢された際、原作者の大森藤ノ氏をはじめとする制作陣が求めていたのは、「どれほど過酷な目に遭っても濁らない、少年の純粋さ」でした。当時、松岡さんはすでに多くの主役を経験していましたが、オーディションテープを聴いたスタッフは、その真っ直ぐで愚直な声に圧倒されたと語られています。アプリゲーム版『ダンメモ』では「1つのゲームで演じた最多ボイス数」としてギネス世界記録に公式認定されるなど、ベル役としての献身はアニメ史に残る記録となっています。
対極に位置するのが、『Re:ゼロから始める異世界生活』のペテルギウス・ロマネコンティです。オーディションではなく指名に近い形でオファーされたこの配役について、松岡さんは当時の特番インタビュー等で「台本を読んだ瞬間、普通に演じては太刀打ちできないと感じた」と振り返っています。
「脳が震える」という狂気のセリフを表現するため、自らの首を無理に傾け、喉の筋肉を限界まで引き絞って発声した結果、アフレコ後は首が回らなくなるほどのダメージを負ったという現場証言は有名です。主人公を演じる声優がここまでの振り切った狂気を見せたことは、業界内でも「松岡禎丞という役者の底知れなさ」を再認識させる決定打となりました。