かつて昭和から平成初期にかけては、テレビ番組や釣り雑誌、図鑑などでも「死滅回遊魚」というセンセーショナルな呼称が一般的に用いられていました。しかし、1990年代後半以降、海洋生物学者や水族館関係者の間では季節来遊魚(きせつらいゆうぎょ)、あるいは「無効分散魚」と言い換える動きが主流となっています。
その背景には、大きく分けて2つの学術的理由が存在します。
第一に、「死滅」という語が持つ宿命的な響きとは異なり、魚自体が死ぬことを目的として回遊しているわけではないという生物行動学的な厳密さです。卵や仔魚が海流によって運ばれる現象は、種が生息域を拡大するための進化戦略の一環(分散)であり、たまたま環境が適さない北限に到達したに過ぎません。
第二に、近年の海水温上昇によって「必ずしも死滅しなくなってきた」という現実があります。黒潮の影響を強く受ける伊豆半島南部や紀伊半島の南端、八丈島などでは、かつて死滅していたはずの南方種が越冬に成功し、翌年以降も成魚として生き残る事例が急増しています。「死滅しない死滅回遊魚」が増加した結果、現場の実態に即した呼び名として「季節来遊魚」が標準的な用語として定着しました。