福田和子を巡っては、インターネットや週刊誌などで「男たちを意のままに操った稀代の魔性の女」「完全犯罪を企てた冷酷な知能犯」といったセンセーショナルな言説が独り歩きしがちです。しかし、公判記録や本人の手記『涙の谷』などを精査すると、実像は大きく異なります。
実際の逃亡生活は、華やかな男遍歴とは程遠い、絶え間ない恐怖とパラノイア(偏執病)に支配された日々でした。わずかな物音やパトカーのサイレンに怯え、夜も眠れず睡眠薬に頼る精神状態が続いていたことが記録されています。整形手術についても、美貌を手に入れるためではなく、「自分の顔そのものを消し去りたい」という切迫した逃亡の恐怖から選んだ苦肉の策でした。
また、金沢の和菓子屋で後妻に収まりかけた際も、地域社会に溶け込み「働き者で気の利く女性」として振る舞うことでしか身の安全を保てない、綱渡りの偽装生活でした。ドラマで寺島しのぶ氏が表現したのも、虚勢の奥底にある「追われる者の底知れぬ脆(もろ)さ」であり、巷の安易な「魔性の女」神話を解体するリアルな人物描写でした。