映画『キャタピラー』が激しい議論を呼んだ最大の要因は、夫婦間の凄絶な性愛と暴力描写にある。軍神と称えられながらも欲望だけを要求する夫に対し、シヅの感情は献身から憎悪、そして奇妙な支配欲へと変貌していく。
なぜこれほどまでに過激な描写が必要だったのか。綺麗事では絶対に描けない戦争の本質を突き詰めた結果である。戦場で他者を蹂躙した狂気は、兵士の肉体に刻まれ、やがて銃後を守る女性の生活をも内側から侵食していく。肌と肌が擦れ合う生々しい息遣い、涙と汗にまみれた寺島の表情は、戦争が人間から尊厳を奪い去るプロセスの残酷さを雄弁に物語っていた。