どれほど優れた楽曲であっても、歌い手の魂が伴わなければ国民的アンセムにはなり得ない。その点において、水前寺清子という存在はまさに天賦のキャスティングだった。
着物姿にトレードマークのショートカット、全身をバネのように使ってリズムを刻む圧倒的な身体性。彼女が放つ底抜けに明るいエネルギーは、NHKをはじめとするテレビメディアを通じて全国津々浦々へと届けられた。とりわけ国民的番組であるNHK紅白歌合戦での歌唱は、年の瀬を迎えた日本全体に明日への活力を注入する一大イベントとなった。
彼女の歌声には、上から目線の説教くささが微塵もない。同じ目線で汗を流す「隣のチータ」が一緒に歩いてくれているような親しみやすさがあったからこそ、歌謡曲というジャンルを越境して大衆の心をつかんだのだ。