映画本編でジャスミンを演じたナオミ・スコットのパフォーマンスは、観客の度肝を抜いた。特筆すべきは、劇中でクライマックスを迎えるソロ歌唱シーンにおいて、あらかじめスタジオで録音された音源に口を合わせるリップシンクではなく、撮影現場での「完全生歌収録(ライブ・レコーディング)」が敢行された点である。
ピンマイクをドレスの胸元に仕込み、伴奏のクリック音だけを耳の極小イヤーモニターで聞きながら、彼女は静寂のアグラバー宮殿で文字通りアカペラで叫んだ。ガイ・リッチー監督は、完璧に整えられたピッチよりも、感情の高ぶりによって声がかすれ、胸が波打つ生々しさを求めた。テイクを重ねるごとにナオミの目には涙が浮かび、首筋には血管が浮き出たという。
スタジオ加工された人工的な響きを排除したからこそ、彼女の呼吸や震える声のすべてがダイレクトに観客の鼓膜へと突き刺さった。それは演技という領域を越え、抑圧されたひとりの人間が自由を渇望するドキュメンタリーのような迫力を帯びていた。