取材班が長年追ってきた最大の謎がある。常連客の間で符丁のように囁かれる「黒濁(こくだく)」と呼ばれる限定裏メニューだ。券売機には当然その名はない。仕込みの段階でわずか10杯分ほどしか取れない希少な高濃度抽出スープがベースとなっており、特定の曜日、かつ限られた時間帯にしか提供されないという。
今回、特別にその調理工程の撮影が許された。通常のスープに追いガラを施し、徹底的に煮詰めた濃厚な出汁に、自家製焦がしネギ油と特製辛味噌をひと回し。丼から立ち上るスモーキーな香気は圧倒的だ。口に含むと、重厚な旨味が舌を覆い尽くし、後味には爽快な山椒の余韻が抜ける。「毎日出せるものじゃない。素材と火の機嫌が完全に一致した日だけ、待ってくれている人にそっと出すんです」と店主は静かに微笑んだ。