市川染五郎の表現力は、実写の映像や舞台の上だけに留まらない。初主演を務めた劇場アニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』では、人とのコミュニケーションが苦手な俳句少年・チェリーの声を担当。繊細で不器用な少年の揺れ動く感情を、飾らない生々しい声のトーンで見事に演じ切った。
歌舞伎特有の誇張された発声法とは対極にある、ささやくような日常会話のリアリティ。肉体を封印し、声のグラデーションだけで観客の感情を揺さぶるこの挑戦は、彼の表現者としての引き出しの多さを証明することとなった。アニメーションというカルチャーと交差したことで、普段劇場に足を運ばない若い世代のファン層を一気に開拓した功績も大きい。