今敏作品の大きな特徴は、「現実と夢(虚構)」がカットの連続性の中でシームレスに交錯する画面設計にあります。そのトリッキーな映像文法ゆえに、作品の選び方を誤ると「難解すぎてついていけない」という印象を抱きかねません。初めて今敏映画に触れる鑑賞者には、受容スタイルに合わせた2つのアプローチを推奨します。
第一の推奨ルートは、「王道ヒューマンドラマから入る入門ルート」です。この場合、1作目には『東京ゴッドファーザーズ』を選びます。過激なサイコサスペンス描写や難解な時系列のシャッフルが抑えられており、新宿の底辺で生きる3人のホームレスが拾った赤ん坊の親を探すという、笑いと涙に満ちたウェルメイドな劇映画として設計されているためです。ここで監督特有のテンポの良い会話劇と緻密なレイアウトに慣れた後、『パプリカ』『千年女優』、そして衝撃作『パーフェクトブルー』へと進むのが最も自然な流れとなります。
第二の推奨ルートは、「映像作家としての作家性を時系列で浴びる公開順ルート」です。初監督作『パーフェクトブルー』(1997年)から『千年女優』(2002年)、『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)、『パプリカ』(2006年)へと進むことで、セルアニメからデジタルペイントへの移行期における映像技術の進化と、モチーフの深化を克明に追体験できます。特に初期衝動が凝縮された『パーフェクトブルー』の生々しいサスペンスは、初見時に強烈な衝撃を残すはずです。