ネット上の掲示板やSNSで頻繁に交わされる議論に、「メディアによく出る美人バイオリニストは、演奏家としての実力は大したことがないのではないか」という穿った見方がある。しかし、クラシック音楽界の内部からこの言説を検証すると、極めて一面的な誤解であることがわかる。
端的な例が木嶋真優である。バラエティ番組での破天荒なエピソードや個性的な言動がクローズアップされがちだが、彼女の演奏キャリアは正真正銘のトップエリートだ。名伯楽ザハール・ブロンに師事し、20世紀最高のチェリストであるムスティスラフ・ロストロポーヴィチから「世界で最も優れたバイオリニスト」と激賞された過去を持つ。2016年の上海アイザック・スターン国際ヴァイオリン・コンクールでは、過酷な審査を勝ち抜いて初代覇者に輝いた。彼女の生演奏をホールで体感した聴衆は、テレビの印象とは正反対の、重低音を響かせる豪快なボウイングと圧倒的なパッションに度肝を抜かれることになる。
また、「毒舌キャラ」としてお茶の間に定着している高嶋ちさ子に関しても同様の偏見が存在する。しかし彼女は、全米屈指の音楽院であるイェール大学大学院で修士号を取得した確かなエリート奏者だ。彼女が率いる「12人のヴァイオリニスト」やソロコンサートは、「クラシックのコンサートは静かに座って聴かなければならない」という固定観念を打破し、休憩なしの構成やトーク中心の進行を取り入れるなど、徹底した顧客視点のエンターテインメントとして成立している。チケットが発売数分で即完売を続ける背景には、観客が「本物の音色と極上の笑い」の両方を享受できているという確固たる満足度がある。
かつて「美人バイオリニスト」という呼称で脚光を浴びた宮本笑里も、デビュー当時はビジュアル先行のプロモーションに苦悩したことを後の手記などで明かしている。しかし彼女はキャスター活動などを経て着実に自らの音楽性を深化させ、現在では円熟味を帯びた抒情的なカンタービレで全国のファンを魅了し続けている。メディアで消費される「記号」としての美貌と、血のにじむ練習によって培われた「演奏技術」は決してトレードオフの関係ではない。ビジュアルをきっかけにクラシックの門を叩かせることは、ジャンル全体の存続にとって極めて実利的な役割を果たしている。