業界の地殻変動の引き金となったのは、Netflixをはじめとするグローバル動画配信サービスの台頭だ。莫大な製作費と徹底した労務管理を掲げて日本市場へ本格参入した配信勢は、国内の撮影現場が長年抱えてきた「暗黙の了解」を一気に暴き出した。過酷な18時間労働、不透明なギャランティ配分、ハラスメントの温床になりがちな閉鎖的空間。これらを是正するインティマシー・コーディネーターの導入や厳格な労働時間制限を標準装備した黒船の現場は、日本映画界の常識を根本から揺るがしている。
ある大手制作会社出身のラインプロデューサーは、自戒を込めてこう打ち明ける。「配信プラットフォームの現場を一度経験した若手や優秀な技術者は、もう従来の邦画の現場には戻りたがらない。私たちが守ってきた伝統という名の手法が、いかに個人の犠牲の上に成り立っていたかを業界全体が痛感している」。作品の評価がいかに高かろうと、制作環境の近代化なくしてクリエイティブの持続は不可能であるという事実が、いま白日の下に晒されている。