「着るたびに欠かさず洗濯機で洗っていたのになぜ黄ばむのか」という疑問を抱く人は多い。だが、家庭用の洗濯機で行う一般的な常温水(約15〜20℃)による短時間洗浄では、人体から分泌される皮脂汚れの約半分しか洗い流せていないのが現実だ。人間の皮脂が溶け出す融点は約37℃前後。体温と同等の温水でなければ、皮脂の主成分であるスクワレンやトリグリセリド(脂肪酸)は液状化せず、細かな繊維の網目の中に頑固にしがみつく。
洗濯直後は目に見えないため「きれいに落ちた」と錯覚してしまうが、繊維に薄く残存した油分は保管中にじわじわと空気中の酸素を吸収し、「皮脂酸化」という化学変化を引き起こす。油が熱や光、酸素によって黒ずんでいくのと同様に、繊維上の皮脂は数週間から数ヶ月をかけて過酸化脂質へと変化し、やがて特有の黄褐色へと変色する。これが、前シーズンに洗って仕舞い込んだはずのワイシャツが、翌シーズンに出すと無残に黄ばんでいる現象の真相だ。
さらに「ワイシャツの脇が黄ばむ理由」には、襟元とは異なる特有の分泌メカニズムが絡んでいる。脇の下には、皮脂腺だけでなくタンパク質や脂質、少量の鉄分を含む汗を分泌する「アポクリン汗腺」が多く分布している。汗そのものは無色透明に近いが、汗に含まれるタンパク質と皮脂が混ざり合い、そこに市販の制汗デオドラント剤に含まれるアルミニウム塩などの金属成分が複合的に結合することで、繊維を強固に染め上げる複合汚れを形成する。これを数ヶ月放置すれば、通常の洗剤はおろか、単なるもみ洗い程度ではビクともしない強固な不溶性ステインへと深化してしまうのだ。