実務上の表記が「十分」一択であるのに対し、「充分」という表記が完全に否定されているわけではありません。私的な手紙、エッセイ、小説などの創作活動においては、漢字本来の持つ味わいを活かしてあえて「充分」を用いる表現技法が存在します。
例えば、親しい間柄での礼状において「お気持ちだけで充分に嬉しく存じます」と書くと、単に量が足りているだけでなく「心が温かく満たされた」という情緒的なニュアンスが伝わりやすくなります。作家が作中の登場人物の内面描写を行う際にも、感情の充足を際立たせる目的で「充分」が戦略的に選択されるケースは珍しくありません。
要は「TPOに応じた使い分け」が重要です。感情を豊かに伝えたいパーソナルな文章では「充分」の表現力を活かし、論理性と正確性が求められるオフィシャルな文章では「十分」に統一するという柔軟な姿勢が大人の文章マナーと言えます。