なぜある種の人々は、自身が口にした約束の重みを顧みず、平然と前言を覆すことができるのでしょうか。行動心理学や臨床心理学の知見に照らし合わせると、そこには単なる「忘れっぽさ」では片付けられない、根深いメカニズムが存在します。
第一に挙げられる前言撤回する心理と理由は、極端な「現在バイアス(Present Bias)」と衝動性です。人間は本来、将来得られる利益よりも目の前の利益を過大評価しやすい性質を持っていますが、約束を平気で破る人物はこの傾向が著しく突出しています。発言したその瞬間は「よく見られたい」「その場の不都合な空気をやり過ごしたい」という欲求に突き動かされ、実現可能性の検証を怠ったまま心地よい言葉を並べます。しかし、いざ言葉を実行に移す段階になると、今度は「面倒くさい」「損失を被りたくない」という直近のコスト回避欲求が勝り、いとも容易に前言を捨て去ってしまうのです。
第二に、二枚舌を使う人の特徴として顕著なのが、自己愛性パーソナリティ傾向やマキャベリアニズムに見られる「他者の感情に対する共感性の欠如」です。相手に対して真摯に謝罪することなく発言を二転三転させる人物の頭の中では、「約束を信じた相手がどれほど時間や感情を浪費するか」という想像力が完全に抜け落ちています。彼らにとって他者は自己の利益を最大化するための道具や観客に過ぎず、過去の言動との整合性を保つことよりも、「今この瞬間の自己の優位性を保つこと」が最優先されます。
第三に、発言が二転三転する原因と真相の根底にあるのは、「内省的知性の欠如と認知的不協和の解消」です。通常、人間は自らの言動に矛盾が生じた際、強い不快感(認知的不協和)を覚えます。ところが約束を平気で破る人の心理的背景を観察すると、彼らは不快感を反省によって解消するのではなく、「状況が変わったのだから仕方がない」「相手の解釈が間違っていた」と、過去の記憶そのものを自己正当化の枠組みへ無意識に改ざんしてしまいます。
組織論の観点からも、プリンシプル(確固たる原理原則)を持たないリーダーが率いるチームでは、トップの発言が朝令暮改を超えて「舌の根も乾かぬうちに」ひっくり返り、現場のエンゲージメントが劇的に崩壊していく光景が頻繁に確認されています。