購入者を最もパニックに陥れるのが、ある朝突然やってくる「カビの発生」です。白や青緑色の胞子が原木の周囲を覆った瞬間、「腐らせてしまった、数万円を無駄にした」と絶望し、ゴミ箱へ直行させてしまう初心者が少なくありません。しかし、現場の生ハム輸入元や加工マイスターの見解は全く異なります。
生ハムの原木において、表面に発生するカビは一部の例外を除き「熟成が進んでいる正常な証拠」です。そもそも生ハムは、スペインの冷涼乾燥した高地で自然の微生物(白カビや有用菌)の働きを利用して1年〜3年以上かけて脱水・熟成させる発酵食品です。流通段階で表面を清掃・オイル塗布されていますが、生きた食品である以上、湿度の高い日本の環境下で胞子が活性化するのは極めて自然な現象といえます。
決定的なのは、「内側の肉質部分までカビ毒が浸透することは塩分濃度と水分の低さから基本的にない」という事実です。表面にカビが発生した場合の正しいリカバリー手順は確立されています。
【実践的なカビ除去プロトコル】
1. 清潔なキッチンペーパーに純度の高いオリーブオイル(または食用油)を含ませる。
2. 白カビや青カビが生えた表面を、力を込めてしっかりと擦り落とす。
3. アルコール消毒液を使う場合は、食品添加物規格のエタノールを布にしみ込ませて拭き取る(※水分を残すと再発の原因となるため乾燥させる)。
4. カビが完全に取れたら、仕上げにオリーブオイルを薄く塗り直して油脂のバリアを形成する。
ただし、注意すべきは「異臭を伴うネバつき」や「黒色・鮮やかな赤色のカビ」です。これらは有害な雑菌が繁殖しているサインであるため、その部位を深めに削ぎ落とすか、食用を中止する判断が必要となります。