生牡蠣の食中毒をめぐっては、古くからの言い伝えや酒席の知恵が「科学的事実」として信じ込まれているケースが散見されます。それらの盲点を暴き、正確な知識へとアップデートしなければなりません。
最大の俗説は「レモンをたっぷり絞る、あるいは強いタバスコやアルコール度数の高いウイスキー・白ワインと一緒に飲めば、殺菌されて当たらない」という言説です。病理検査機関の実証実験によれば、レモンのクエン酸やタバスコの刺激成分、胃の中で薄まる程度のアルコール濃度では、カプシドと呼ばれる強固なタンパク質の殻に守られたノロウイルスを失活させることは不可能です。レモンやシャブリ(白ワイン)はあくまで風味を引き立てるペアリングであり、抗ウイルス効果は期待できません。
また、「一度当たれば抗体ができて二度と当たらない」という免疫神話も完全な誤りです。ノロウイルスには遺伝子型だけで30種類以上が存在し、抗原変異を頻繁に繰り返します。ある1つの型に感染して獲得された中和抗体は半年から2年程度で減衰する上、異なる遺伝子型のウイルスに対しては交差免疫がほとんど働きません。「去年当たったから今年は安全」という油断こそが、2年連続の悲劇を招く最大の落とし穴です。