神在月期間中の出雲大社を訪れる際、絶対に押さえておきたいのが独特の参拝作法と境内マナーです。一般的な神社では「二礼二拍手一礼」が標準的ですが、出雲大社では古来より「二礼四拍手一礼」が正式な作法とされています。
現地神職の解説および神道資料によると、四拍手を行う理由には「四季を表し、神の実りへの感謝を捧げる」「東西南北の四方を守護する神霊を敬う」といった意味合いが含まれています。なお、5月14日の例大祭(勅祭)では最も丁寧な「八拍手」を行いますが、日常の参拝ではその半分である四拍手をもって最敬礼とするのが伝統的な教えです。
また、現場取材を通して確認された、神在月ならではの重要な参拝ルールがいくつか存在します。
- 十九社(神々の宿舎)への拝礼:本殿の東西にある東十九社・西十九社は、神在祭の期間中のみすべての扉が開かれます。全国の神々がここに宿泊しているため、御本殿だけでなく十九社へも静かに一礼を捧げるのが通の参拝法です。
- 大声や騒音の自制:出雲地方では神在月の期間中、神々の会議を邪魔しないよう、民家でも歌舞音曲を慎み、建具を静かに開閉する「お忌み(おいみ)」の風習が受け継がれてきました。境内やその周辺で騒ぎ立てる行為は厳に慎むべきとされています。
- 砂の交換儀礼(素鵞社):本殿裏手に位置する「素鵞社(そがのやしろ)」には、稲佐の浜で採取してきた清めの砂を納め、社の下にある御神砂を同量持ち帰る習俗があります。無断で砂を持ち去るのではなく、必ず浜の砂を奉納した上で持ち帰ることが鉄則です。
和菓子の名物「ぜんざい(神在餅)」発祥の知られざる由来
参拝の合間に門前町で食される定番の甘味「ぜんざい」も、実はこの神在月に深く関係しています。
出雲地方の古文書『祇園物語』や江戸初期の文献『雲陽誌』の記録によると、神在祭の折に神前に供えられた赤小豆の餅菓子が「神在餅(じんざいもち)」と呼ばれていました。この「じんざい」という発音が、出雲弁特有の音韻変化によって「ずんざい」、そして京都に伝わる中で「ぜんざい」へと変化したとされています。
小豆の鮮やかな赤色は古来より魔を祓う呪力があると信じられており、全国から集まった神々をもてなすための特別な神饌(しんせん)が、今日私たちが親しむ甘味のルーツとなりました。歴史の重みを感じながら門前町でいただく温かいぜんざいは、単なる観光グルメを超えた神事文化の一端といえます。