かつての静寂を取り戻すことは、もはや不可能なのだろうか。世界的な渡航ブームを背景に、観光・インバウンド産業の主役として社寺が脚光を浴びている。朱色の鳥居が延々と連なる風景や厳かな手水舎の作法は、海外からの旅人にとって「もっとも日本的な異空間」として消費されている。
手元のスマートフォンを開けば、Google マップのクチコミ欄には無数の言語でレビューが書き込まれ、かつては地元住民しか知らなかった隠れた境内末社や湧水スポットが瞬時に世界へと共有される。混雑の緩和や参拝マナーの啓発といった課題が噴出する一方で、国境を越えた人々が手水を使い、二礼二拍手一礼の作法をぎこちなくも真摯に真似る姿は、日本の精神文化が普遍的な魅力を放っている証左でもある。