医学の世界において、左右で瞳の色が異なる現象は「虹彩異色症(ヘテロクロミア)」と定義される。猫の瞳の色は、虹彩に含まれるメラニン色素の量と光の散乱によって決まる。青い瞳はメラニンが極めて少なく、光のレイリー散乱によって青く見えているに過ぎない。対して黄色や茶色の瞳には、豊富なメラニン色素が沈着している。
動物遺伝学の視点から見ると、この現象の主たる引き金は胎生期におけるメラノサイト(色素細胞)の移動プロセスにある。受精卵から体が形成される過程で、神経堤から出発した色素細胞は全身へと旅立つ。ところが、白猫を生み出す優性白遺伝子(W遺伝子)や斑パターンを作る白斑遺伝子(S遺伝子)が作用すると、この移動が途中で阻害される。片方の眼球にだけ色素細胞が到達し、もう片方には届かない――その刹那のドラマが、左右で異なる色彩の瞳を創り出す。