神谷バーに足を踏み入れ、フロアを見渡すと、常連客のテーブルには必ずと言っていいほど「琥珀色の小さなグラス」と「黄金色に泡立つ生ビールの中ジョッキ」が並んでいます。水ではなく「生ビールをチェイサーにして飲む」ことこそが、神谷バーが創業以来受け継いできた伝統の流儀です。
アルコール度数30度〜40度の酒を飲みながら、さらにアルコール度数約5度のビールをチェイサー(追い酒)にするというスタイルは、一見すると酒豪だけの無謀な飲み方のように思えるかもしれません。しかし、これには味覚のメカニズムに基づいた明確な必然性があります。
電気ブランの濃厚な甘みとハーブの芳香を舌で転がした直後、氷のように冷えた生ビールを喉へ流し込む。すると、ビールのホップが持つキリッとした苦味と爽快な炭酸ガスが、舌の上に残ったリキュールの甘美な余韻を瞬時に洗い流します。甘みと苦味、濃厚と爽快という対極のフレーバーが交互に訪れることで、口内がリセットされ、次のひと口が再び鮮烈に美味しく感じられるのです。神谷バーで提供される生ビールは、隣接する墨田区吾妻橋に拠点を置くアサヒビールの鮮度抜群なスーパードライ。注ぎ手の職人技が生み出すクリーミーな泡が、電気ブランの強いアルコール感を優しく包み込みます。
ただし、アルコールの分解速度という観点では注意が必要です。ビールはチェイサーとはいえ立派な酒であるため、体内に入る総アルコール量は確実に増加します。美味さに任せて交互に杯を重ねると、あっという間に泥酔へと至るリスクを孕んでいます。粋な大人の嗜みとしては、合間にしっかりと本物の「お冷(チェイサーの水)」を挟みつつ、自分の限界を見極めてゆったりと時間をかけて味わうのが鉄則です。