宣言を出しただけで「人間」になれるわけではない。生身の人間として国民の前に姿を現す必要があった。こうして始まったのが、全国巡幸という前代未聞のパフォーマンスである。
仕立ての良くない背広をまとい、中折れ帽を片手に炭鉱や引き揚げ者住宅を歩く昭和天皇。「あ、そう」と短く言葉を返すそのぎこちない立ち居振る舞いは、神話を剥ぎ取られた人間のリアルそのものだった。マッカーサーの副官たちは、飢えに苦しむ群衆が天皇に石を投げるのではないかと本気で危惧していたという。だが起きたのは正反対の熱狂だった。日の丸の小旗が揺れ、歓声が地を揺るがした。かつて雲の上から拝むことしか許されなかった存在が、自ら泥靴を履いて焼け跡に降りてきたという事実。日本人は神を失ったのではなく、親しみやすい「国父」を手に入れたのだ。この巡幸こそが、神格否定を机上の空論から国民的感情へと定着させた決定打だった。