山口春吉のルーツは兵庫県淡路島にある。漁村の厳しい生活を逃れ、一攫千金を夢見て神戸へと渡った彼は、当時の最下層労働と目されていた沖仲仕の世界に身を投じた。神戸港の波止場は、全国から集まった一筋縄ではいかない男たちが割拠する荒くれ者の吹き溜まりでもあった。
潮風と油にまみれながら重い荷物を背負う日々の中で、山口春吉はその持ち前の度胸と義理堅さで頭角を現していく。怪我をした仲間を扶助し、不当なピンハネを行う仲買人に対しては体を張って抗議する姿勢が、周囲の港湾労働者たちから絶大な信頼を集めた。この時期に形成された「組」の精神構造は、近代日本の労働運動や実質的な労務管理の原型とも重なり合う。