『美少女戦士セーラームーン』を語る上で見逃せないのが、原作漫画(武内直子氏)と1994年放送のテレビアニメ『美少女戦士セーラームーンS』における、土萠ほたるの設定と結末の大きな差異です。
原作漫画におけるほたるは、幼少期の事故で肉体の大部分を失っており、父の手によって機械の体を埋め込まれた「サイボーグ」として描かれています。常に黒い長袖やハイネックを着用していたのは、継ぎ接ぎだらけの機械の体を隠すためでした。また、父である土萠教授は完全に狂気と悪に染まっており、最後はセーラームーンの攻撃ではなく、ウラヌスの手(スペース・ソード)によって無残に討たれます。ほたる自身もファラオ90を封印するために冥王星の彼方へ消え去り、命を落とします。
一方、幾原邦彦氏らが演出を手掛けた旧アニメ『S』版では、サイボーグ設定はカットされ、病弱で霊的な感受性が強すぎる少女として翻案されました。土萠教授も悪魔に憑依されて操られていた「哀しき被害者」として描かれ、クライマックスでは正気を取り戻します。ほたるは自らの意思でサターンとして覚醒し、ファラオ90の体内へ突入して特攻しますが、スーパーセーラームーンの奇跡の力によって救い出され、「無垢な赤ん坊」として現世へ転生を果たしました。
アニメ版のラスト、記憶を失った父・土萠教授の腕の中に抱かれ、穏やかな木漏れ日の中で赤ん坊のほたるが微笑むシーンは、平成アニメ史に残る屈指の救済劇として語り継がれています。